稲田大学 体温・体液研究室

ヒトの温度と水に関わる問題を解決する
Waseda University Body temperature and Fluid laboratory

Study Projects

体温体液研究室の理念と目標

なにを目標に研究をし、かつ社会に還元していくのか?

われわれの研究室は体温、体液をテーマにそれらの調節メカニズムの解明を研究の中心に掲げています。

普段気づくことは少ないですが、体温、体液の量や組成は一定にたもたれています。これはわれわれが生きていくために非常に重要な調節系です。この調節系の破綻は、熱中症などの死に至る病気に直接つながります。
体温は日常では冷暖房の使用にも関係しており、ヒートアイランド現象などの都市環境の変化、地球温暖化などの地球規模の環境問題に密接につながっています。また女性の冷え症などもにも関係しています。
研究室ではこれら体温、体液のテーマにその基礎から応用までのプロジェクトが進みつつあります。まだまだ研究室は未熟ですが、この研究分野の世界のメッカになるべく日夜精進しています。
とかく科学は研究者の独りよがりになりがちです。また多くの研究は社会のニーズを見失っている感がありま す。われわれの研究は一つの目標の下に、人や実験動物を用いた実験によって行い、科学的な解明と近未来での応用,実践に常に続けていく形で進むよう、知的 で役に立つ科学を目指しています。

永島 計

進行中の研究や企画の概要、院生や共同研究について

温度感覚
われわれは温度情報をどのように評価するのか?

教科書的には,環境の温度は皮膚から体性感覚野に伝えられ意識にのぼるとされています(脊髄視床路)。しかしヒトによって温度感覚は一様ではありません。冷え性のヒトはその典型かもしれません(文献1)。また、体の部位によっても温度の感じ方は一様ではありません(文献2)。さらに体の状態や深部の体温によっても感じ方は多いに異なります。われわれば、分子や電気生理的に温度受容のしくみをとらえるのではなく、温度感覚や温熱的快適感がいかにヒトの身体の状態で変化するのか?ヒトのなかでも異なるかを追求していこうとしています。生理学的手法、心理学的手法、機能画像(fNIRS, fMRI)などを用いて研究を行っています(文献3、4、5)

熱中症
高体温による障害を予防し治療する

熱中症の発症は高齢者と若年者では大きく異なります。いずれも高温、高湿度環境や脱水などが大きな誘因と考えられています(文献6)。しかしながら、飲水や塩分摂取につとめるのみ(あるいは依存のみ)では温暖化に伴いますます熱中症患者は増える一方でしょう。われわれは熱中症の予防法の開発につとめるとともに、未知ともいえる熱中症の病因、病態を分子レベルで探索し、致死的である重度熱中症にたいする治療薬開発の基礎となる研究を展開していこうとしています。

行動性体温調節
生物にとっての恒温性とはなんぞや?

体温というとイメージするのが恒温動物、変温動物かもしれません。恒温動物は体温を維持し,変温動物は環境の温度に影響されながら大きく体温を変化させている勘違いされているかもしれません。しかしながら全ての生物にとって温度、その恒温性は生存にとって非常に重要です。
 環境の変化にも関わらず体温を維持するしくみは恒温動物,変温動物にも備わっています。そのしくみは非常に単純で適した環境を選んで移動したり、営巣したり、水浴びする行為などであり行動性体温調節と呼ばれます。ヒトでは衣服の着脱や空調のON-OFFも行動性体温調節の一つです。多くの研究がなされていますが、その行動のわかりやすさに対峙して、生理学的•神経科学的なしくみは十分になれているとはいえません。我々は,このしくみを明らかにするとともに様々な応用につなげていこうと考えています(文献7、8)。現在、車等の狭い空間での快適かつエコな空調、薬剤を用いた冷感、温感刺激によるによる快適性の創出ための共同研究を行っています。

飲水と塩分摂取
運動や暑熱下での水や塩分摂取の方法を開発する

熱中症予防のために飲水や塩分摂取が重要であることは,もはや常識になりつつあります。しかしながら、飲水や塩分摂取は熱中症の万能薬ではありません。水や塩分をいつ、どれだけとるのか。また、体液の量や組成が体温調節にどのように影響するのかを明らかにしようとしています(文献9、10)。

文献
  1. Thermal regulation and comfort during a mild-cold exposure in young Japanese women complaining of unusual coldness. Nagashima K, Yoda T, Yagishita T, Taniguchi A, Hosono T, Kanosue K. J Appl Physiol. 2002 Mar;92(3):1029-35.
  2. Regional differences in temperature sensation and thermal comfort in humans. Nakamura M, Yoda T, Crawshaw LI, Yasuhara S, Saito Y, Kasuga M, Nagashima K, Kanosue K. J Appl Physiol. 2008 Dec;105(6):1897-906. doi: 10.1152/japplphysiol.90466.2008. Epub 2008 Oct 9.
  3. Brain activation during whole body cooling in humans studied with functional magnetic resonance imaging. Kanosue K, Sadato N, Okada T, Yoda T, Nakai S, Yoshida K, Hosono T, Nagashima K, Yagishita T, Inoue O, Kobayashi K, Yonekura Y. Neurosci Lett. 2002 Aug 30;329(2):157-60.
  4. Relative importance of different surface regions for thermal comfort in humans. Nakamura M, Yoda T, Crawshaw LI, Kasuga M, Uchida Y, Tokizawa K, Nagashima K, Kanosue K. Eur J Appl Physiol. 2013 Jan;113(1):63-76. doi: 10.1007/s00421-012-2406-9. Epub 2012 May 9.
  5. Mild hypohydration induced by exercise in the heat attenuates autonomic thermoregulatory responses to the heat, but not thermal pleasantness in humans. Tokizawa K, Yasuhara S, Nakamura M, Uchida Y, Crawshaw LI, Nagashima K. Physiol Behav. 2010 Jun 16;100(4):340-5. doi: 10.1016/j.physbeh.2010.03.008. Epub 2010 Mar 15.
  6. Central mechanisms for thermoregulation in a hot environment. Nagashima K. Ind Health. 2006 Jul;44(3):359-67. Review.
  7. Tail position affects the body temperature of rats during cold exposure in a low-energy state. Uchida Y, Tokizawa K, Nakamura M, Lin CH, Nagashima K. J Comp Physiol A Neuroethol Sens Neural Behav Physiol. 2012 Feb;198(2):89-95. doi: 10.1007/s00359-011-0690-1. Epub 2011 Oct 29.
  8. Hyperosmolality in the plasma modulates behavioral thermoregulation in mice: the quantitative and multilateral assessment using a new experimental system. Lin CH, Tokizawa K, Nakamura M, Uchida Y, Mori H, Nagashima K. Physiol Behav. 2012 Jan 18;105(2):536-43. doi: 10.1016/j.physbeh.2011.09.006. Epub 2011 Sep 14.
  9. Neuronal circuitries involved in thermoregulation. Nagashima K, Nakai S, Tanaka M, Kanosue K. Auton Neurosci. 2000 Dec 20;85(1-3):18-25. Review.
  10. The median preoptic nucleus is involved in the facilitation of heat-escape/cold-seeking behavior during systemic salt loading in rats. Konishi M, Kanosue K, Kano M, Kobayashi A, Nagashima K. Am J Physiol Regul Integr Comp Physiol. 2007 Jan;292(1):R150-9. Epub 2006 Jul 13.